phatback

…あれとかこれとか。

安然自在

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息をためらう。

こういうご時世だから、人混みや咳をしている人の近くを通る時にはついつい息を止めて歩いてしまいがちになる。見通しの立たなさを誰かのせいにしようとするプロレス的な報道や個人の意見の発信も、本当の所は誰のせいでもないのだと分かっている。どこにもぶつける事の出来ない感情の行き先を、自己の責任において落とし所を模索している。

 

台湾の女性シンガーソングライター、魏如萱の新しいアルバム"Hidden, Not Forgotten"を聴く。キャリアも割と長く、台湾のインディーズ界隈ではメジャーな立ち位置と認識している。十数年前のデビュー当時から、アメリカや日本の音楽の影響を多分に吸収したインディーポップな作風のアーティストという印象。デビューアルバムは時々無性に聴きたくなって、年に一度は聴いてきた記憶がある。

デビュー以降もいくつかのリリースがあり、新作もスタイルは変わらないが、出産を経験したりと年月を経た分の堂々としたスタンダードな作風になっている。大味と言われればそう。余白に白で描かれたエモーショナルな陰影を感じ取れたら、みるみると立体的かつたゆたう繊細な感情が浮かびあがってくる。

「彼個所在 Heaven」のMV。

最愛の人の不在を描いたストーリーに、「それは反則」と思って見進めていたが、どうやらここでもまた歌と同様に、繊細な感情の揺れ動きがある事に気付く。

悲しいストーリーの中にあるどうにもあたたかくやわらかな空気。邪心が一本ずつ解かれていく。

歌の魅力はもちろんだが、とにかく女優さんの演技がすばらしい。浮遊してたゆたう感情の機微がどうにも見事。

ウィキペディアで調べると、Cecilia Choiという26歳の香港の女優さんらしく、今年の香港の映画賞で最優秀主演女優賞も受賞しているらしい。

日々刻々とアップされるニュースに対して、何処に感情を落ち着かせればいいのか分からない。そうでありながらも、子供たちに対して優しく気丈に接してあげる必要もある。

今自分たちは心の中できっとああいう表情でいるんだなと思うとすんなりおさまりがいい。

 

魏如萱 waa wei / 彼個所在 Heaven

https://m.youtube.com/watch?v=86wypSCXK9M

 

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バック トゥ キャンベル!

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とにかく日々と音楽。

書いて書いて…そこから何か始まる気がして始めたこの場所も、随分と更新しないままいつのまにか年が明け、世の中のあれやこれやにあっちむいてほいでせわしない。

世の中がこういう状況になるまでは、特に劇的な何かがいつもいつもある訳ではないけれども、どこかストーリーの中に生きていたんだなと思わされる。普段縁の薄かった言葉が踊り、人の営みというものがよりリアルに感じられ、自らが自作でストーリーを作っていかなければならなかったのだと改めてはっとさせられる。

 

多少普段よりは時間があるので、80〜90年代のニュージャックとかブラコンをyoutubeでどっさり漁ったりしている。

景気が良かったとか色んな理由があったにせよ、時代が時間を楽しんでいたのだと思う。MVには何気ないシーンの中に溢れる笑顔が充満している。分かりやすいストーリーも今みたいな複雑な時代に対してシンプルに答えを言ってくれてるみたいで潔い。

訳も分からず背伸びして聴いてたなー。

そんな想い出が二割増でにやりとさせる。

 

三月。

姿勢を正す。

そして生活はつづく。

 

TEVIN CAMPBELL / Can We Talk

https://m.youtube.com/watch?v=JARjuZjb2kw

 

 

 

ジェット・ストリーム

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グルーヴは反復する。

人は世に連れ 世は人に連れ。

ピンボールのように弾け飛び、壁にぶつかり、ストンと落ちる。

月の周期に海の満ち引き。

自然のバイオリズムがもたらすものかどうかは定かではないが、巡り巡ってそういう気分の周期がくるものだ。

紛れもなく今をそう思う。

音楽もまた同じく、その人の中にジャンルは巡る。

音楽への造詣が深ければ深いほど、遠くへと旅が出来る。

久しぶりにデトロイトの街並が見えてきた。

 

このジェフ・ミルズの写真がなんかいい。

指で掴んだ透明の球体に映る、逆さまのジェフ・ミルズ

手相とかも絶対よさそうだなぁ。

 

 

Jeff Mills / The Wizard Detroit

https://m.youtube.com/watch?v=uapn-mknXVU

天津飯とセレナーデ

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「今何食べたい?」と聞かれると、大体いつも「天津飯」と答える。赤くて甘い餡じゃない方。茶色い餡の方。
具は何も入ってないやつ。卵だけのやつ。
卵とご飯と餡だけで出来る、限りなく削ぎ落としたシンプルな天津飯が好きだ。
数年前に理想の天津飯を出す中華屋を見つけた。
夫婦で営んでいたと思われるその店は、日本人の大将と中国人の女将が大体いつも喧嘩していた。客が少ないから、店が傾いてるのか。国が違えば価値観も違うのか。結婚する前に盛り上がりすぎて、相手を深く知るに至らず結婚してしまったのか。はたまた両親に反対されて駆け落ちしてからの苦労してお店開くとこまでいきました的パターンか。注意深く耳を澄ましてみるも、理由までは分からなかった。


ある日行った時に、やはり天津飯を注文したら、いつもよりかなり多めの量の山になっていた。
「明日ヤスミダカラ…大盛リニシテマス…。」と女将。照れ臭そうにはにかみながら言う。こんな美味い天津飯を出す上にこんな人情まで。
行った時には大体客が少なかったので、是非ともこの事をSNSで拡散しなくてはと思うのだが、そもそも自分は細々とチマチマとマゴマゴとSNSをやっている身。インフルエンスも出来るはずもないので、「女将。取り敢えず自分のペースで通わせて頂くよ…」と心の中で誓いを立てる。
近所にあったので、ついつい行きたくなってしまうのだが、綺麗な女性だって毎日見てたら飽きる。あんまり通い過ぎて味に慣れ過ぎて美味しく感じなくなってしまうのを恐れて頻繁には行かなかないようにしていたが、味に慣れない程度に適度なペースでなるべく通うようにしていた。
それがある日閉店して、別の台湾料理店に変わっていた。綺麗な女性も見飽きたら見飽きただけの良さもあるし、別の内面により目を向けて良さを感じたかもしれない。もの凄く後悔したが、居抜きで出来たと思われる新しい台湾料理店に行ってみることにした。もしかしたら同じ夫婦がテーマを変えてリニューアルしたのかもしれない。売上が芳しくないから心機一転。もしくは夫婦喧嘩の果てに離婚して、大将が新たに一人でやりはじめたとか。もしくは別の女と一緒にか。あの女将の人情は無くなってるかもしれないが、取り敢えず味だけでも守ってくれていればいいと淡い期待を抱く。
テーブルに来た天津飯の餡は赤い。


もっともっと見つめていればよかった。
深く理解をしようとすればよかった。
時間や環境にかまけて、人はいつだってなくなってから気付く。何度も忘れては気付かされているのだから、もうそろそろ忘れないでいよう。今は今しかないのだ。人生の先輩達が経験してきた、使い古されてきた当たり前のシンプルな言葉がどうやっても的を得ているはずだ。

そこにはいつも感謝を。
これは天津飯の話ではない。

 

TOM WAITS / SAN DIEGO SERENADE
https://www.youtube.com/watch?v=EQwIlI9oKkQ

 

日焼けの跡。

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    夏についたビーチサンダルの日焼けの跡がまだ消えない。なんだかんだ訳あって今日は実家に泊まることになった。久しぶりに入った実家の風呂がリフォームされていて驚くほど綺麗になっている。リフォームしてから数年経つが、改めて実家に泊まる機会がなかったので今更新鮮な気分でいる。以前は陶器の浴槽、銭湯みたいなタイル、無駄に勢いが強すぎてかゆくなるシャワー、隙間のヒビ割れとか、「実家の風呂」でググったら大体出てきそうな実家の風呂だった。それが今や、暖房に乾燥に自動お湯張り、絶対うちでは使わんだろうミストサウナ…今じゃ結構当たり前にある機能を完備している。

    「Mなんかな。はたまた人から見たらWか。それによって自己中心的か、人の気持ちを考える優しいやつかが変わってくるな…」とか考えながら、浴槽から突き出して並べた両足の日焼け跡について考える。そういうもう本当にどうでもいいくだらない禅問答風クイズに時間を費やす程に、やっぱり実家は落ち着くなぁとしみじみ思う。シャンプーはメリットだし、ボディーソープじゃなくて石鹸だし、ほぼ沸騰してる湯舟のお湯も、ハードは変わってもソフトは変わらずにいて、この落ち着きをひっそりと支え続けている。そりゃそうだよな。多くの人が実家レペゼンだし。実家のにおいや感触由来な訳だから。


    明日は朝が早いから早めに寝る。いつもは母が寝ているベッドで自分が寝ることになった。父は薬を飲む時間まで起きているというので、まだリビングでテレビを見ている。あれやこれやと心配して構ってくる母のフィルターがないとテレビの音がダイレクトに聞こえるから、いつもよりも音量をしぼっている。

    神様も仏様もありとあらゆるありがたいとされる全てのなんとか様も、どうか明日を。人の想いが巡り巡って誰かを守ったり何かを変えるのだと信じている。それがなんとか様と呼ばれているもののうちの一つだと思う。すぐにまたいつも通りの実家のにおいや感触が戻ってきますように。相変わらずな実家のこの布団の重みでまだ眠れないままでいる。

 


https://m.youtube.com/watch?v=ybOa6BQyZa8

具島直子『mellow medicine』を聴く。

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振り返ると今年は音楽を仕事として聴くことが大半だったな。仕事で必要な範囲の音楽や、プライベートでももっぱら自分のカテゴリー内で生活のBGMとしてや、感情を意図的にコントロールしたりする為に音楽を聴く機会が非常に多かったし。

新しい作品を聴き込む事や、自分の知らない昔の音楽を(所謂)ディグる事をあまりしなかった一年と言える。

だから、今年のベストディスクの選盤とかもうどうしていいか分からない。逆にエントリー数が少ないからすぐ選べたりしてしまう。

そんな中での具島直子。

ずっと廃盤だった3作のアルバムが最新リマスターで再発。

どれも最高なんだけれど、

中でもやっぱり“mellow medicine”は格別。基本的に具島直子本人が作詞作曲を全曲手掛けてるって言うのもぐっとくる。

一見シンガーソングライター風のアーティストの佳曲が、作詞作曲を見ると違う名前だったりした時の説得力のなさを感じる事がたまにある。

その点、具島直子の歌声にはリアリティがくっきりと浮かぶ。淡々と見えて感情の機微を実に繊細に紡いでいるヴォーカルは、祈りを捧げるかの如く荘厳。それをなめらかに優しく包み込むバンドメンバーのグルーヴも、トロットロで濃厚なメロウムードをジャズマナーで極限までスムースに研ぎ澄ませている。

 

ちょうど12月に入った所。

盛り沢山なイベントへの期待と同時に、どうしようもないいつかの恋の苦さも毎年一緒に運んでくる。

街に溢れたワクワク感を優しくクールダウンしてくれる「12月の街」が、どちらにせよ至福の時間を与えてくれる。

 

https://m.youtube.com/watch?v=FtkNoofVMiM